
summary
BtoB企業において広告運用の内製化(インハウス化)を検討する動きは、ここ数年で急速に増えています。背景にあるのは、広告費の高騰や代理店依存によるブラックボックス化、そして「広告は回しているが、事業成果に結びついている実感がない」という構造的な不満です。
特に製造業やBtoB企業では、広告が直接売上につながるまでのリードタイムが長く、代理店任せの運用ではMQLからSQL、そして商談・受注までの改善ポイントが見えづらくなりがちです。その結果、「本当にこの広告は意味があるのか」「なぜ展示会より費用対効果が悪いのか」といった疑問だけが残ります。
本記事では、広告運用を代理店からインハウス化する際に必ず確認すべきチェックリストと、失敗しないための現実的な移行ステップを、BtoB・製造業の実務視点で解説します。単なる理想論ではなく、「実際に内製化を進めた企業がどこでつまずくのか」「どの順番なら社内で回るのか」を前提にしています。
また、以下名称と定義を把握することも非常に重要です。
| 名称 | 説明 |
| MQL | マーケティング活動によって獲得し 自社プロダクトの導入便益が理解され 商談化しやすいと判断できるリード |
| SQL | 営業チームがアプローチする 準備が整ったリード |
| 商談単価 | 商談を獲得するためにかかるコスト |
| CPA | 新規顧客の獲得単価 |
広告インハウス化がBtoB企業で注目される理由
広告のインハウス化が語られる際、「コスト削減」や「スピード向上」といったメリットが強調されがちです。しかし、BtoB企業における本質的な理由はそこではありません。
多くのBtoB企業では、広告は単体で成果を出すものではなく、MAやCRM、営業活動と連動して初めて価値を持ちます。にもかかわらず、代理店運用では広告のKPIがクリックやCPAで止まり、MQL以降のデータと分断されてしまうケースが少なくありません。
実際に支援したBtoB企業の中には、広告のCPAやCV数は目標を達成しているにもかかわらず、商談化率が想定を大きく下回っていたケースがありました。 広告管理画面上では成果が出ているように見える一方で、営業からは「確度の低い問い合わせが増えている」という声が上がり、社内で問題視されるようになりました。 このギャップが、広告をMQL以降の指標と結びつけて評価する必要性に気づくきっかけとなりました。
広告を内製化する動きは、単なる運用体制の変更ではなく、「マーケティング全体を事業成果と接続し直す試み」として捉える必要があります。
インハウス化を検討すべき企業と、まだ早い企業の違い
すべての企業にとって、広告の内製化が最適解とは限りません。実際、時期尚早なインハウス化によって、CPAが悪化し、現場が疲弊するケースも多く見てきました。
一つの判断基準は、「広告を改善するための意思決定を、社内で行いたいかどうか」です。たとえば、MQLの質が悪い理由を、営業やインサイドセールスと一緒に議論し、ターゲットや訴求を変えたいと考えている企業は、内製化の適性があります。
一方で、「とりあえずリード数だけ増えればいい」「広告の中身は正直よく分からない」という状態であれば、無理に内製化するべきではありません。
代理店依存の広告運用で起きがちな問題
代理店運用そのものが悪いわけではありません。しかし、BtoB企業特有の構造と相性が悪いポイントがあるのも事実です。
よくあるのが、「月次レポートは来るが、次に何を改善すべきかが分からない」という状態です。広告の成果が、事業側のKPI(受注率、LTVなど)と接続されていないため、議論が常に表層的になります。
実際の代理店との定例MTGでは、「今月はCPAが改善しました」「クリック率は前月比で上がっています」といった報告が中心になります。 一方で、「では来月はどの施策に予算を寄せるべきか」「受注につながる改善は何か」という問いに対しては、明確な判断材料がなく、その場では結論が出ないまま次回に持ち越されることが少なくありませんでした。 結果として、意思決定が1か月単位で遅れ、改善のスピードが落ちていきます。
この構造的な分断を解消する手段の一つが、広告インハウス化です。

広告インハウス化前に必ず確認すべきチェックリスト
広告インハウス化は、正しく設計すればBtoBマーケティングの再現性を大きく高めます。一方で、事前準備を欠いたまま進めてしまうと、「運用作業は内製化できたが、成果はむしろ不安定になった」という状態に陥りがちです。
特に多い失敗は、「代理店がやっていた作業を、そのまま社内に移しただけ」で終わってしまうケースです。
インハウス化の本質は運用作業の移管ではなく、意思決定と改善プロセスの内製化にあります。
そのため、着手前に以下の3つのポイントを必ず確認する必要があります。
広告インハウス化前チェックリスト
| チェック項目 |
|---|
| 1. 広告運用の「責任」と「判断権限」が明確か |
| 2. 広告KPIが事業KPIと接続されているか |
| 3. 広告・CRM・MAのデータ連携が把握できているか |
① 広告運用の「責任」と「判断権限」が明確か
まず最初に整理すべきなのは、広告運用を誰の責任にするのかです。
ここで言う責任とは、単なる作業担当ではなく、
- KPIをどう定義するか
- 数値が悪化した際に何を優先して改善するか
- 予算配分を変える判断を誰が行うか
といった意思決定レベルまで含みます。
担当者を置いただけで、判断が上長や他部署に分散している状態では、改善スピードは上がりません。
インハウス化前に「最終判断者は誰か」を必ず言語化しておく必要があります。
② 広告KPIが事業KPIと接続されているか
次に確認すべきなのが、広告の数値と事業側のKPIの接続です。
CPAやCV数だけを見ていても、BtoBビジネスでは成果を正しく評価できません。
最低限、以下のような流れで数値を追える状態が理想です。
広告CV→ MQL→ SQL→ 商談→ 受注
この接続が曖昧なまま内製化すると、「広告の数字は良いが、営業成果につながらない」状態が温存されてしまいます。

③ 広告・CRM・MAのデータ連携が把握できているか
広告インハウス化は、データ構造を理解していないと成立しません。
具体的には、
- 広告データはどこまで取得できているか
- MQL・SQLの判定はどのツールで行われているか
- 広告と営業成果をどう突合しているか
を事前に整理しておく必要があります。
実務上は、以下のような構成で運用しているケースが多く見られます。
Google広告/Meta広告 + HubSpot(またはSalesforce) + スプレッドシート(補助的な集計・可視化)
重要なのはツールの種類ではなく、「どの数字を見て、誰が判断するのか」が一気通貫で追える構造になっているかです。
広告インハウス化の成否は、始める前の設計で8割が決まると言っても過言ではありません。このチェック項目をしっかり確認してからインハウス化を進めましょう。
インハウス化移行の現実的なステップ
広告運用のインハウス化を検討する際、多くのBtoB企業が陥りがちなのが「すべてを一気に内製化しようとする」ことです。
しかし実務の現場では、これはほぼ確実に破綻します。
理由はシンプルで、広告運用には
- 媒体ごとの仕様理解
- 数値の読み解き
- 改善判断の優先順位付け
- 営業・CRMデータとの接続
といった複数のスキルが同時に求められるためです。これらを準備不足のまま社内に移すと、「運用はできるが、成果が説明できない」状態に陥ります。
そのため、現実的な選択肢は「部分内製」から段階的に進めることです。
ステップ① 戦略・KPI管理のみを内製化する
最初のフェーズでは、広告の意思決定部分だけを社内に戻すことをおすすめします。
具体的には、
- どのチャネルに投資するか
- KPIをどこに置くか(MQL、SQLなど)
- 予算配分や撤退判断の基準
といった「考える領域」を社内で担い、入稿や入札調整といった運用作業は引き続き代理店に任せます。
そうすると、代理店とのMTGが「報告の場」から「意思決定の場」に変えることができます。
ステップ② 特定媒体・特定業務のみを内製化する
次のフェーズでは、範囲を限定して実務を内製化します。
たとえば、
- Google広告のみ内製化
- 広告文・クリエイティブ改善のみ内製化
- レポート作成と数値分析のみ内製化
といった形です。
あるBtoB企業では、まずGoogle広告の検索キャンペーンのみを内製化しましたが、最初は「入稿はできるが、改善の優先順位が分からない」状態が続きました。
そこで、代理店と並走しながら改善仮説の立て方を学び、ようやく社内で数値を説明できるようになりました。
このフェーズで重要なのは、成果を出すことよりも、再現できるプロセスを理解することです。
ステップ③ 運用〜改善を一気通貫で内製化する
部分内製で一定の再現性が見えてきた段階で、初めて全面的な内製化に進みます。
この時点では、
- 広告KPIと営業KPIが接続されている
- 数値をもとに改善優先度を判断できる
- 担当者が変わっても回る仕組みがある
という状態が整っている必要があります。
実務経験上、この段階に到達するまでには少なくとも6〜12か月かかるケースが大半です。
逆に、このプロセスを踏まずに一気に内製化した企業ほど、数か月で外注に戻ってしまう傾向があります。
段階的インハウス化のプロジェクト例
実際に弊社が関わった中堅BtoB企業のプロジェクトでは、以下の流れで内製化を進めました。
- 0〜3か月戦略設計・KPI管理を社内に戻す→ 判断基準が曖昧で議論が停滞する失敗を経験
- 4〜8か月Google広告のみ内製化→ 改善仮説の立て方が属人的になり、再現性が課題に
- 9か月以降全媒体を内製化し、代理店はレビュー役に→ 改善スピードと営業連携が大きく向上
このように、失敗と見直しを前提に設計することが、結果的に最短ルートになります。
広告インハウス化は「やるか/やらないか」ではなく、「どう段階を踏むか」が成功の分かれ目になります。
部分内製から始め、社内に判断軸とナレッジを蓄積していくことが、BtoB企業にとって最も現実的なアプローチです。
内製化後に成果を出すための運用体制と役割分担
インハウス化がうまくいかない最大の理由は、「運用はできるが、改善が回らない」状態に陥ることです。
成果を出しているBtoB企業では、広告担当者だけでなく、営業やインサイドセールスと定期的に数値を共有し、「なぜこのリードは受注しなかったのか」まで踏み込んで議論しています。

実際に、広告の成果はCV数やCPAだけで評価せず、MQL→SQL率やSQL→商談率までをセットで見ています。 たとえば、獲得数は維持できているがSQL転換率が落ちている場合は、広告訴求やLPの期待値ズレを疑う、といった形で改善仮説を立てています。 この共通指標が、内製化後の改善スピードを支えています。
インハウス化でよくある失敗パターンと回避策
よくある失敗は、「代理店を切ること」がゴールになってしまうことです。本来の目的は、広告を事業成長に結びつけることのはずです。
もう一つ多いのが、属人化です。特定の担当者しか分からない状態を放置すると、その人が異動・退職した瞬間に運用が止まります。
広告のインハウス化は、それ自体が目的ではありません。あくまで、マーケティング全体を事業に接続するための手段です。
もし「内製化できるか不安」「今の体制でどこまで内製化すべきか分からない」と感じているなら、まずは現状を整理することから始めるべきです。
まとめ
広告運用のインハウス化は、BtoB企業にとって非常に有効な選択肢です。しかし、正しい順番と設計なしに進めると、かえって成果を悪化させてしまいます。
重要なのは、「なぜ内製化するのか」「どこまでを内製化するのか」を明確にし、段階的に進めることです。本記事が、その判断材料になれば幸いです。







